極私的名盤&名著探訪記

これまで聴いてきた音楽、本の素晴らしさを徒然なるままに書き記します。

『しんがり』と『会社がなぜ消滅したか』の関係をどう読むか?

かつての「4大証券」の”滅び”とその後を描く

しんがり 山一證券 最後の12人』については、2014年度の講談社ノンフィクション賞を受賞したり、WOWOWでテレビドラマ化されたりしたので、ご存じの方も多いことでしょう。

 

ものすごく簡略化して概要を記したいと思います。

 

かつて野村證券大和証券日興証券(現SMBC日興証券)と並び、「4大証券会社」と称された山一證券バブル経済崩壊に伴う含み損を隠し、それを簿外債務として子会社などに「飛ばして」いたが、2000億円超にも上る金額に。そして1990年代の終わりにかけて発生した日本の金融危機の中で隠しきれなくなり、1997年11月に自主廃業に追い込まれた。『しんがり』は、その山一證券が破綻に至る経緯と、清算業務などに携わったメンバーについて描いたノンフィクションとなっている。

「チーム」で執筆された底本の存在

しんがり』を読んで多くの人が気がつくことですが、本書には元となった本があります。それが読売新聞社会部著の『会社がなぜ消滅したか 山一証券役員たちの背信』です。単行本が1999年、文庫が2001年にそれぞれ新潮社から出版されています。この書物のとりまとめ役を担ったのが当時、読売新聞社東京本社社会部次長(文庫化時には中部本社社会部長)だった清武英利氏です。未読ですが、読売新聞の社会面に「背信」と題して行った長期連載を元にしているそうです。

 

この『会社がなぜ消滅したか』には、すでに『しんがり』の”主役”となった嘉本隆正氏や堀嘉文氏らが登場しており、すでに当時から取材対象であったことがわかります。『しんがり』執筆にあたり、当時の関係者に改めて取材したようですが、単純に読めば、清武氏が当時の取材以降も彼らとの関係を継続していたからこその労作だと思えます。

 

組織の長とチームメンバーとの関係は?

ただ、『会社がなぜ消滅したのか』は、あとがきを読むと清武氏以外に3人の記者の名前が記されています。新聞社の体制からして、その配下にはさらに、それぞれ現場取材にあたりメモを上げ続けた若手記者たちがいたかもしれません。だからこそ、著者名は「読売新聞社会部」となっているわけです。『しんがり』はその取材成果をベースに、後年の追加取材を加えた清武氏の著作、ということです。もちろん、清武氏の追加取材は綿密なものであったことがうかがえますし、取材対象との信頼関係も感じられます。読んでいても非常に面白い。

 

それだけに後年、『会社がなぜ消滅したか』を復刻するにあたって、著者名を「読売新聞社会部清武班」としようとしていたことは個人的に残念です。もちろん、契約上の問題もありますから一概には言えないことも承知しています。この問題については訴訟になり、大きく報じられましたから、ご存知の方も多いでしょう。

 

経営トップに限らず、組織の長はチームの成果を自分の成果と認識することが多いでしょう。一方、チームメンバーは、その成果の一端は自分の活動にあったと考えることが多く、その食い違いが大きいか、小さいかでその組織の継続性が変わってくるのではないかと思います。少し飛躍し過ぎかもしれませんが、『しんがり』や『会社がなぜ消滅したか』で描かれた会社組織の問題も、著者名変更の問題も、世のほとんどの組織が抱える課題と共通しているような気がします。

 

自分自身が組織の長ではなく、一構成員だからこそ、このような感じ方になるのだなと今回、改めて2冊を読み直して思うことです。

年始から夜更かし?

今更ですが、この2冊のノンフィクションとしての面白さに疑いはありません。読めば夜更かしをすることは間違いないでしょう。さらに、読売新聞社会部には『会長はなぜ自殺したか』という第一勧業銀行(現みずほ銀行)のスキャンダルを描いたノンフィクションも存在します。こちらも日本の金融危機を振り返るにあたっては必読の書と言えます。